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DVD評『トロイ』

『トロイ』(DVD 04年11月26日鑑賞)
 トロイVSギリシャ。トロイの木馬でおなじみですね。スパルタ王の妻を奪ったトロイ王子を追ってギリシャ船団が要塞都市トロイに押し寄せる。これは欧米人にとっては忠臣蔵みたいなもので、どこで誰がどうなるかはもうみんな知っている。アキレスとヘクトルは対決すべくして対決するし、トロイの木馬はトロイの木馬としてそこにあるし、アキレスはアキレス腱を射抜かれなければならないし、どれだけ工夫しようが努力しようが、トロイは滅びてしまうんだし。可哀想に。と、そんな無常観ただよう雰囲気はまるで『平家物語』を思わせて、ハリウッド超大作にしては後味が重い。
 アキレスを古典的スーパーマンじゃなく人殺しの罪に悩む現代的英雄にしたのも重いし、ヘクトルを殺されたプリアモスは悲痛すぎるし、何より、ヘクトルを演じたエリック・バナの存在感がすごすぎる。古代って、こんなに人一人の命が重かったのか?
(ウォルフガング・ペーターゼン監督 2003年 アメリカ TROY)

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DVD評『ハリウッド的殺人事件』

『ハリウッド的殺人事件』(DVD 04年11月25日鑑賞)
 復業で不動産屋をしてる刑事と俳優志望の刑事が組んでラッパー殺人事件を追う。ここに親の仇や妻仇打ちやもからまって、最後はよくわからない追跡劇。この追跡劇をまさにマスコミが「劇」にしてしまうところも「ハリウッド的」ってことなのか。
 何かあるのかと思って最後まで観たのに結局なんにもなくて、何? これ? という感じ。
(ロン・シェルトン監督 2003年 アメリカ HOLLYWOOD HOMICIDE)

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DVD評『アナトミー』

『アナトミー』(DVD 04年11月24日鑑賞)
 偉大な解剖学者である祖父を慕い、ショボイ町医者の父を軽蔑してる医学生の娘。選ばれてハイデルベルクに特別講義を受けにやってきた。ところが、いきなり、行きがけの列車の中で知り合った重い心臓病の男の子が献体になって横たわってる。これは、ただ事じゃない。
 で、調べていくうち「アンチ・ヒポクラテス」なる団体の存在に行き当たる。患者のため、という医の倫理を否定し、研究のためには生体解剖さえも厭わない、かなり怪しげな集団らしい。実際、この医学生の回りでは怪しげな事件が次々と起こる。
 話としては別にどうと言うことはないけど、やっぱり、「身体」が「人体」として扱われるのって気色が悪い。それがまた自分の「身体」だったらなおさら。解剖されつつある自分に気付いてしまうなんて、想像出来る限りで最高の気色悪さじゃないでしょうかね。「女体」を「人体」標本にしてしまう、サイコというかカルトな男も気色悪いし。
「誰か縫ってくれよぉ」
 って、おいおい、まあドイツらしいと言えば言える。
 女子学生の成長していく様は爽やかだけど。
(ステファン・ルツォヴィツキー監督 2001年 ドイツ ANATOMIE)

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DVD評『スティーヴン・キング/痩せゆく男』

『スティーヴン・キング/痩せゆく男』(DVD 04年11月22日鑑賞)
 辣腕弁護士がジプシーの親玉の娘(と言っても老婆)を不注意からひき殺し、でも判事や警察署長とグルになって無罪。怒ったジプシーはこの3人に「ジプシーの呪い」なるものをかけ、判事はトカゲのような姿になり、警察署長はまるでゾンビ、そして弁護士は食っても食っても痩せる。ドンドン痩せる。
 で、「ジプシーの呪い」を解いてもらいにジプシーキャラバンを捜して旅に出る。見つかる。もちろん事態は悪化する。前に弁護して恩を売ったギャングの親玉もやってくる。もっと事態は悪化する。報復が報復を生んで、なんかもう、最悪。ラストも最悪。なんですか、これは? って感じ。
(トム・ホランド監督 1996年 アメリカ STEPHEN KING'S THINNER)

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DVD評『夜の大捜査線』

『夜の大捜査線』(DVD 04年11月20日鑑賞)
 アメリカ南部の小さな街で起きた殺人事件。容疑者は駅の待合室にいた黒人。財布には被害者から奪われた額に近い大金が入ってる。怪しすぎる。でもすぐに釈放、だってこの黒人も刑事なんだもん。北部で活躍してる敏腕刑事、専門は殺人。
 というわけで、地元の警察の手伝いをすることになったんだけど、何せ、人種偏見の強い土地柄。警察署長にしてからが、この黒人刑事に「言うこと聞かないと鞭で打つぞ」と叫く始末。それでも捜査は一歩ずつ前進して、物語は爽やかなラストに流れ込む。
 低予算丸出しで、アクションもほとんどなく、古い(1967年制作)。それでも最近の月並みな刑事モノよりはるかに心理的な掘り下げが深い。シドニー・ポワチエの名演が光る。
(ノーマン・ジュイソン監督 1967年 アメリカ IN THE HEAT OF THE NIGHT)

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DVD評『ハンニバル』

『ハンニバル』(DVD 04年11月19日鑑賞)
 人間離れした知性と洞察力をもったハンニバル・レクター博士とFBI捜査官クラリスの、実にアブナイ交感は仄かに時空を超えて続いていたのだった。
 で、国際手配されたレクター博士には多額の賞金がかかっており、それを目当てにタレ込んだイタリアの警察官は腹を裂かれて窓から首つり、内蔵は広場にベチャッと落ちて、この繋がりでレクターとクラリスの仄かな交感の糸が実体化してしまう。ここに、レクターを自分の「顔」の仇とつけねらう大富豪が絡んできて陰惨度は加速、レクターは自分に絡んでくる「悪い奴ら」を裁判も無しに次々惨殺して最後は脳みそを生贄自身に食わせたり、でも、気色悪いだけで、全く怖くない。これは観る前からわかってたんだけど。
 だって、奇妙に倫理的な極悪人の、その「極悪」の部分を常人の倫理(クラリスへの愛とかそういうの)で解釈してしまっちゃだめでしょう。これじゃレクターの常軌を逸した部分が削れてしまう。
(リドリー・スコット監督 2001年 アメリカ HANNIBAL)

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DVD評『キル・ビルVol.2』

『キル・ビルVol.2』(DVD 04年11月18日鑑賞)
 結婚式でリンチされ殺されかけたザ・ブライドの復讐の旅、完結編。今度はメキシコ。最後の標的・ビルとも再会して和やかだったり殺し合ったり。
 それにしても、埋められた墓から出てくるのに過去のカンフー修行が役に立つとは……若い頃の苦労はしておくもんだとつくづく実感。するわけねーだろっ!
 Vol.1はまだ日本編が面白かったけど、これはちょっとどうしようもない感じ。2本に分けて正解でした。1だけでじゅうぶんです。
(クエンティン・タランティーノ監督 2004年 アメリカ KILL BILL: VOL. 2)

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DVD評『涙女』

『涙女』(DVD 04年11月17日鑑賞)
 不法滞在していた北京で夫は傷害事件で逮捕、妻も故郷に強制送還されてしまう。故郷で妻は葬儀屋の元カレに薦められ「泣き女」で稼ぐことにする。結構儲かる。これだったら被害者の治療費や夫の保釈金もすぐに貯まるだろう。でも、元カレとは焼けぼっくいに火がついていて、これはこれで美味しい関係だったりして。
 と、なんだか主人公の泣き踊りのようなフワフワした印象が強烈な怪作。ラストがちょっぴり悲しい。
(リュウ・ビンジェン監督 2002年 フランス 哭泣的女人)

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DVD評『25時』

『25時』(DVD 04年11月17日鑑賞)
 ニューヨーク。
 ここで白人のヤサ男が服役したらどうなるか。
 最初の自由時間によってたかって押さえつけられ、いくら暴れようとバケモンみたいな男の群れ、まずは前歯をへし折られて抜かれ、以後、刑期を終えるまで看守も公認の「女」として生きる地獄の日々……逃れるには病死か、自殺か、腸管を破られての悶絶死か。救いは、ない。
 そんな運命の服役を明日に控え、最後の自由時間を友達二人と過ごす白人のヤサ男。ドラッグのディーラーをしていて密告され、元締めを売れ、という警察との取引にも応じず7年服役することになった。
「今日が俺の最後の夜だ。ムショの7年は長すぎる……もし戻って来れたとしても、もう今の俺じゃない」
 堅気の友人二人には慰めの言葉もない。こいつが娑婆でやったほとんど唯一の善いこと、瀕死の犬を助けた、その犬の世話を約束するだけ。
 さりげない背景にあのグラウンド・ゼロが入り、失った人生の取り返しのつかなさが胸にしみる。
 そこの、ニューヨークでドラッグのディーラーになって一発当てようと思ってるアナタ、これを観て考えなおしなさい。大丈夫、アナタはまだ引き返せる! と、そんな映画。
(スパイク・リー監督 2002年 アメリカ 25th hour)

『涙女』(DVD 04年11月17日鑑賞)

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DVD評『21グラム』

『21グラム』(DVD 04年11月16日鑑賞)
 最初はワケがわからない。でもそのうち話が繋がってくるんだろうなと思って見続けても時間軸も一本じゃないものだからなかなか筋を掴みきれない。でも、だんだんと、心臓移植でしか助からない教授、キリスト教に過剰にはまってる元チンピラ、そしてこの二人を繋ぐことになる哀れな主婦、の、この三つの人生が平行しつつ、悲惨な事故をきっかけに無理矢理紡ぎ合わされていくのが見えてくる。すると、さっきまで無意味な断片でしかなかったシーンがまるで想い出のように蘇り、現前のシーンと重なり合って、観る者を重厚な視聴体験へと誘っていく。
 人は死ぬと「21グラム」軽くなるんだという。臓器移植はこの21グラムのやりとりなのか。だが、たとえば理不尽に殺された人の心臓が自分の胸に宿った時、その無念の「心」までもがこの身体に蘇ってくることはないのだろうか。そして、もし、その無念の「心」を宿した身体が殺人者の前に銃を持って立った時、そうやってその身体が銃を構えていられるのはこの男が心臓の提供者を殺したからなのだ。引き金を、引けるのか。
 救いようもなく重いが、かすかな爽やかさを残す不思議な一作。
(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督 2003年 アメリカ 21grams)

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映画評『血と骨』

『血と骨』(劇場 04年11月12日鑑賞)
 済州島からやってきた朝鮮人の一代記。在日男性の金と性と暴力に取り憑かれた凄まじい生き様をビートたけしが見事に演じ……などという評があちこちに踊るんだろうが、冗談じゃない。正直言って「たけし」は余計だった。だってどう見たってこの人「たけし」じゃないですか。この映画、「たけし」を選んだ時点でもう駄目。國村隼とか寺島進とか、それに新井浩文の名演が「たけし」の登場で台無しになってる。
 いや、そもそも原作が悪い。ただの作り話が「自伝」的なものと誤読され、おまけに薄っぺらで全然「内面」を描けていないのが「野獣」的だのと評価されているんだから、今に始まったことじゃないがジャーナリズムや論壇文壇はどうなってんだ。
 大日本帝国の崩壊と性的に放縦な親による意味もない暴力、という設定は『愛を乞う人』とそっくりで、でも出来は比べるのもはばかれる愚作中の愚作。と呼びたいが、戦後の雰囲気はいやらしいほどしっかり作りこんでいて、それなりに懐かしく、本筋以外では感動できる部分もある。
 それにしても……「在日」の戦後はここまで「暗く」ないと思うぞ。こういう、イメージ通りの「在日」像を描いてみせるところが在日進歩的文化人の嫌らしさではあるんだが、それにしても……ひどい。それに、せっかく戦後の「在日」に広がった「阿弥陀仏」「観世音菩薩」信仰をチラリとでも描くなら、あんな「暗く」ではなく当時大阪の朝鮮人の間で歌われた「念仏ブギ」くらい流してカラカラと明るく処理して欲しかった。舞台は大阪なんだから。この歌は趙博の『ソリマダン第三集』(Pandra Record)に入っていて、深夜、焼酎を飲みながらこれと「橋」(どちらも朝鮮語)とを交互に聞くとなぜだか泣けてくるので困る。
(崔洋一監督 2004年 日本)

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映画評『オールド・ボーイ』

『オールド・ボーイ』(劇場 04年11月12日鑑賞)
 ある日突然監禁されて15年。絶望して自殺未遂するのも6年目まで。あとはいかにして脱出するか、脱出して報復するかを考える日々。
 で、解放の日も突然やってくる。閉じこめた張本人も現れる。
「なぜ俺を監禁した?」
 この問いは実は間違っている。
「なぜ俺を解放した?」
 と問わなければならなかったのだ。「監禁」したことが復讐なのではない。「解放」して、「自由」に泳がせ、ある「罪」を「自発的」に負わせることが本当の復讐だったのだ。
 罪と、罰と、復讐と。
 ゾッとする。
 マジでゾッとする。
 ラストのどんでん返しの繰り返しは呆れるほどに見事で、なぜこれが日本で作られなかったのかと悔やまれる。だってこれ、原作は日本のマンガなんだよ。
『シュリ』の「ヘンボゴ男」チェ・ミンスクの熱演が凄まじい必見中の必見の大傑作。
(パク・チャヌク監督 2003年 韓国)

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DVD評『グッバイ、レーニン!』

『グッバイ、レーニン!』(DVD 04年11月7日鑑賞)
 ベルリンの壁崩壊直前に倒れて昏睡状態になり、東ドイツが消え去る直前に目が醒めた母。医者は息子に、母親に刺激を与えると危険だという。でも教条的な社会主義者だった母親にとって東ドイツが溶解している様ほど刺激的なことがあろうか(いや、ない!)。と言うわけで、息子は母親を外界から隔離して、まだまだ東ドイツが続いているような芝居を打つ。でも窓からはコカコーラの垂れ幕がのぞいたりするし、母親はテレビが見たいって言うし、もう消え去った東ドイツのピクルスが食べたいとか言うし、息子曰く。
「まるでUボートの船長になった気分だ。一つ穴を塞いだと思ったら、またどこかに穴があく」
 結局、ベルリンの壁崩壊の事実は隠しきれなくて、これを東の政府が積極的に西の難民を受け入れることにした結果だと誤魔化してしまう。この辺からもう、ウソはただのウソを超え、この息子が求めていたあり得べき「統一」の姿へと横滑り。その世界では、資本主義とは違う価値観を求める人々が西から大挙押し寄せてきて、ついに東ドイツは国境を開放、実に平和的に「統一」が実現されるのだった。まさに歴史の捏造。
 ペーソスとおかしみと、イデオロギーに翻弄される悲しさ悔しさと、様々な要素が(一部は消化しきれずに)入っていて、元左翼ならずとも、現代史に関心のある人は必見の佳作。
(ヴォルフガング・ベッカー監督 2003年 ドイツ GOOD BYE LENIN!)

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DVD評『花とアリス』

『花とアリス』(DVD 04年11月6日鑑賞)
「憧れの先輩」が転んで頭を打ったのをいいことに「私に好きって言ったじゃないですか、忘れたんですか?」などと、相手を部分的な記憶喪失者に仕立て上げ、奇妙な交際を始める高校生「花」。このお芝居が破綻しそうになって、その破綻を繕うために親友の「アリス」に元カノとしてさらなる芝居を打って貰うことになる。
「なんで僕たち別れたのかなぁ」
 などと、女の子二人に振り回される「先輩」の心は次第に「アリス」に傾きはじめ、「花」と「アリス」の友情に微妙な影が落ちてくる。
 まず現実には成立しそうにない少女マンガのようなお話しが、どうしてこう、沁みるんだろう。美しい映像、自然でよどみない演技、そして監督自身によるシンプルな音楽。岩井監督も実験的失敗作だった『リリイ・シュシュのすべて』を経て、やっと自分の世界に帰ってきたという感じかな。
(岩井俊二監督 2004年 日本)

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DVD評『着信アリ』

『着信アリ』(DVD 04年11月4日鑑賞)
 自分の名前で自分宛に着信がある。するとその人は死ぬ。次にその人のメモリーに入っていた誰かにまた当人の名前で着信がある。また死ぬ。主人公の同級生はテレビの生番組で除霊して貰ったのにその除霊中にスプラッタな死に方をする。で、ついに主人公にも着信があり、どうも幼児虐待とかそういうのにも関係がありそうで、この辺からストーリーは破綻の一途、呪いはあるわ、ゾンビは出るわで、柴咲コウの名演も事態の進展にとてもじゃないが追いつかない。変な意味で手に汗握る。
 しかしまあ、たった一本によくこれだけジャパニーズ・ホラーの要素を詰め込んだモンだと感心する。「要素」さえあればいいってもんじゃないが。
(三池崇史監督 2004年 日本)

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映画評『コラテラル』

『コラテラル』(劇場 04年11月1日鑑賞)
「巻き添え」って意味でしょうかね。殺し屋に雇われることになったタクシー運転手のめくるめく一夜。5人を一晩で殺さなきゃならないんだけど、殺し屋が一人、また一人、とかたづけていくうち、運転手は次第に、傍観者→説経師→ヒーローへと(仕方なく)変貌を遂げ、で、この心理描写をウザイと思うかどうかで評価が分かれる一作だろう。殺し屋曰く、アフリカで虐殺があったときお前は抗議したか? してないだろ、一緒だよ、傍観してればいいんだよ……銃を突きつけられてこうやって「説得」されたら、妙に「納得」してしまわないだろうか。観ながら、変に論理的な殺し屋と気弱な運転手の奇怪な友情の行方が気になったりする。
 トム・クルーズは二代目『ターミネーター』を狙ってるんだろうかと思わせるくらい、道徳の欠如した人殺しを演じて凄みがある。ただ、クルーズのファンにはこれが悪役に見えるんだろうかとちょっと心配。
(マイケル・マン監督 2004年 アメリカ COLLATERAL)

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映画評『隠し剣 鬼の爪』

『隠し剣 鬼の爪』(劇場 04年11月1日鑑賞)
 貧しいけれど楽しい我が家に住む謙虚な剣豪、という設定は『たそがれ清兵衛』とそっくり。許されない恋も、上意討ちを命ぜられるところもそっくり。舞台も東北だし、時代も幕末だし。落ちもまたそっくりで、この監督、藤沢周平原作で『寅さん』に次ぐシリーズを築こうとしてるんじゃなかろうか、と邪推させるような佳作。
 ストーリーの緊密さと殺陣の緊張感では『たそがれ清兵衛』に負けるけれども、とぼけた雰囲気の永瀬正敏と影のない松たか子の掛け合いが楽しい。
(山田洋次監督 2004年 日本)

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DVD評『イノセンス』

『イノセンス』(DVD 04年10月31日鑑賞)
 複数の男がロボットに惨殺される。共通点は……そのロボットを「性」の対象にしていたこと。で、この手の怪しげな事件を扱う攻殻機動隊が出陣して敵のアジトを突き止めて云々。驚嘆すべき映像はこれを劇場で観なかったことを激しく後悔させるものだけど、やっぱり、押井監督のシナリオが理屈っぽい。原作が理屈っぽいから仕方ないと言えば仕方ないが、それでも無意味に思わせぶりで理屈っぽい。これさえなければ、とつくづく思う。
 これまで押井監督のものでは『パトレイバーⅡ』が最高で、以後はもう奈落への下降線をたどるのみ、かと思っていたら、辛うじて崖っぷちで踏みとどまったのが本作かな。
(押井守監督 2004年 日本)

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